「 奥へ 」 2024年 245×185㎜ 版画(モノタイプ)
森で考える
私は、オーストラリア・ブリスベンを拠点に美術活動を行なっています。東京、ロンドン、シドニーで版画を学んだ後、現在は、版画のほかに絵画や立体作品も制作し、オーストラリア内外で発表しています。最近では、2021年に東京のギャラリーナユタで、また、2023年にはブリスベンのサイド・ギャラリーで個展を行ないました。
世界的に環境問題が注目を集める中、私も、人間と自然の密接な関わり合いをテーマにしています。モチーフとしては、植物、山、森、空、池、川など、それらを画面上で人体と共に配置することで、共存の表現を試みています。作品の制作方法については、様々な版画技法のほか、太陽光を用いたサイアノタイプや、柿渋や和紙をはじめ自然を強く感じさせる素材を採用し、自然との協働を意識しています。
以前からこのようなやり方で制作していましたが、2020−21年の世界的なコロナ禍でさらに、こうした傾向が強まった気がします。
コロナで制作や作品発表が厳しい制約を受ける一方で、テーマである自然の中に存分に身を置き、時間をかけて周囲を観察し、作品への展開を探ることができたのは、この時期の収穫でした。また、オンラインの人体デッサン会に参加して、人体各部の形が、自然界のモチーフの形や景観に似ていることの面白さにも気づきました。コロナとは直接関係なかったものの、この時期に家族が亡くなったことで、人間が自然の営みの一部であるということを更に強く意識するようになりました。
コロナ禍中の作品には、例えば、毎日散歩していた公園に生えていたシダの葉をモチーフにした「Forest
Dreaming」や、人体デッサンをもとにしたリノカットと切り株や石の拓本を合わせた「Sun-kissed」があります。これらの作品は、2021年末と2023年の個展でも展示しました。
現在は、コロナによる制約から解き放たれて、自由に活動できるようになったことが、またひとつ、制作の新しいテーマになっています。ギャラリーナユタでの今個展では、コロナ禍後の自由を楽しみながら、従来からの自然と人間というテーマを踏まえつつ、「これからまたどんどん進んでいこう、そしてどこへ行こうか?」と考えながら取り組んだ作品を展示しています。
(わたなべけい)
「先へ 」 2024年 245×185㎜ 版画(モノタイプ)