「Family Album」は、自身の家族写真を複写し別の物語をつくりあげた吉川直哉の代表作である。
記憶の再構成を通じて、写真という存在のかけがえなさを 「Family Album」は見る者に伝えた。
そして吉川は、2020年初頭より家の一員となった、犬のリキを核に新たなシリーズを編み上げた。
彼の登場とほぼ時を同じくして、パンデミック・コロナが家族の日常を覆った。
「はっぴぃドッグ」、 2年半の家族のアルバム。
(佐藤香織)
"Family Album" is the representative book by Naoya Yoshikawa, the photographer,
who created another story by copying and
remodeling some photos of his own family.
Through memory reconstructions, "Family Album" has conveyed to viewers the preciousness of photography.
Yoshikawa has made a new series based on the dog Riki, who became a member of the family in the early 2020 s.
It was about the same time as the COVID-19 pandemic swept through the family's daily life.
"Happy Dog" is the album of family in the past two and a half years.
(Kaori Sato)
2020年に上梓した写真集「Family Album」の奥付の写真で、実家を背にぼくは犬のぬいぐるみを抱いている。
それはぼくの一歳の誕生日に大伯母からプレゼントされたもので肌身離さず持っていた。名前は「はっぴぃ」。
ぼくがもう興味を示さなくなったある朝、ボロボロになった「はっぴぃ」に母は板チョコを抱かせてゴミに出した。
ぼくにはその意味がわからなかった。ぼくが4歳くらいのとき、子犬を家で飼ったことがある。父によると名前は「はっぴぃ」だった。
蚊が媒介する病気になるとかで、すぐに子犬は知人にもらわれた。坂を下る自転車の荷台の箱から「はっぴぃ」は首を出してぼくを見ていた。
独身時代の母が飼っていた犬の名前も「はっぴぃ」だった。母がちょっと目を離した隙に「はっぴぃ」は「犬取り」に拐われた。
母は必死に探したがすでに遅かった。「犬取り」は首輪だけを母に見せたという。狂犬病予防法が施行される前の話だ。
ちなみに母は戌年だった。ぼくは「Family Album」の続きを作ろうと決めた。
(吉川直哉)
In a photo in the colophon of my photo book "Family Album" published in 2020, I was holding a stuffed dog in front of my parents' house. It was a gift from my great aunt on my first birthday, and I always carried it with me. His name was "Happy”.
One morning, when I was no longer interested in it, my mother put a piece of chocolate on the tattered "Happy" and took it out as trash. I did not understand what she meant by that. When I was about four years old, we had a puppy at home. According to my father, his name was "Happy”. I was told that the puppy was liable to get a mosquito-borne disease, so he was soon given to an acquaintance. “Happy" stuck his head out of a box on the back of the bicycle as the bicycle went down the hill, and was looking at me. My mother's dog when she was single was also named "Happy“. When my mother took her eyes off him for a moment, "Happy" was kidnapped by a dog thief. My mother looked for him desperately, but it was already too late. The dog thief showed her only his collar. This happened before the Rabies Prevention Law came into effect. Incidentally, my mother was born in the Year of the Dog of the Zodiac . I decided to make a continuation of "Family Album”
(Naoya Yoshikawa)
1961年奈良県生まれ。⼤阪芸術⼤学写真学科卒、⼤学院芸術文化研究科前期課程修了。⽂化庁派遣芸術家在外研修(アメリカ)。
チビテララニエリセンター選考アーティスト・イン・レジデンス。秋吉台国際芸術村アーティスト・イン・レジデンス。
テグ写真ビエンナーレ 2016芸術監督。第5回日本グラフィック展協賛企業賞、第7回大理国際写真連盟主席大賞(中国)。
国内外で展覧会、ワークショップなど多数。2020年写真集「Family Album」上梓。
■主な個展
1985 ピクチャー・フォト・スペース(大阪)
1990 ギャラリー・クォーレ(大阪)
1995 Fine Arts Gallery Southampton College、Avram Family Gallery for Fine Arts(ニューヨーク)
ギャラリー・アート・グラフ(東京)、ピー・バンク・ギャラリー(北海道)
1998 クオヅコ芸術文化センター(ポーランド)
1999 グダニスク美術大学ギャラリー、ウォームジャ芸術文化センター(ポーランド)
2000 フォトギャラリー051(プサン)、ギャラリーLUX(ソウル)
2002 新宿ニコンサロン、大阪ニコンサロン
2006 スタジオ・アーカ(大阪)
2008 ぎゃらりーきょうばて(奈良)
2010 ギャラリー・アーティスロング(京都)
2012 第4回大理国際写真フェスティバル(中国)
2014 ギャラリー・アーティスロング(京都)
2017 第7回大理国際写真フェスティバル、第17回平遥国際写真フェスティバル(中国)
2020 半山ギャラリー(東京)、ギャラリーナユタ(東京)、Gallery Chuff(東京)
2021 ギャラリーら・しい(奈良)、ガルリ・カフェ・アエレ(奈良)
2022 ガルリ・カフェ・アエレ(奈良)、ギャラリーナユタ(東京*予定)
■以下を含む350以上のグループ展に出品
1986~88 『15 contemporary photographic expressions』(筑波大学、大阪芸術大学)
1999~2001『Tomorrow is Today』日本・ポーランド国交80周年巡回展(日本、ポーランド巡回)
2005 『未来を担う美術家たちDOMANI・明日』損保ジャパン東郷青児美術館(東京)
2012 『第1回カサブランカ国際ビエンナーレ』ビエンナーレ特設会場(モロッコ)
『Towards the Essence 2009-2010』クラクフ美術館マンガ(ポーランド)
『現代日本写真家五人展』谷仓現代写真美術館(中国)
『Seeing Oneself日本展:9か国国際写真プロジェクト』銀杏菴(大阪)
2013 『第5回国際写真フェスティバル』在中韓国文化センター(中国)
2014 『第2回北京国際ビエンナーレ写真週間 PHOTO BEIJING 2014』(中国)
2018 『延辺国際写真文化週間』(延辺中国朝鮮族自治州政府庁舎、中国吉林省延吉市)
2019 『New Japanese Horizon』Williamsburg Art & Historical Center(アメリカ、ニューヨーク)
2020 『済南国際写真ビエンナーレ・日中韓写真展』(中国)
2021 『仁川海洋写真映像祭』仁川市各会場(韓国)
『旧杉山家写真物語展』旧杉山家住宅(大阪)
2022 『CAT』動物保護協会ĶEPU-ĶEPĀ(ラトビア)
『仁川海洋写真映像フェスティバル』(韓国)
■作品収蔵
インド写真芸術センター(ムンバイ)、西安美術大学(中国)、延辺大学芸術学院(中国)、クオヅコ芸術文化センター(ポーランド)、ウォームジャ芸術文化センター(ポーランド)、ポズナン美術大学(ポーランド)、スウビツェ芸術文化センターGALERIA OKNO(ポーランド)、Williamsburg Art & Historical Center(米、ニューヨーク)ほか。