〈ドッケビ〉シリーズについて 河 明求 /Ha Myoung-Goo
2015年から発表している作品群は韓国と日本の持つ土地の記憶を〈ドッケビ〉シリーズというモチーフで繋げてゆくといった表現を展開している。〈ドッケビ〉は呪術的な信仰の一つであり、昔から韓国の民衆により伝来され、先祖たちの生き方や感性を共感できる象徴的な存在である。韓国の伝統説話の中でよく登場する〈ドッケビ〉たちは人間に近い形象をして超自然的な力を持つ者で、悪くて人に害を与える鬼とは違う人間のような心を持つ親しい神として描かれている。
〈ドッケビ〉は今の時代にも漫画やドラマで制作されているほど韓国ではまだ大衆的で象徴的な存在として人々の意識の中で生きている。自分が制作している〈ドッケビ〉も「民族大百科事典」「三国遺事」などの歴史資料を参考にして 無邪気な顔をしている者や個性の強い表情をしている者が多い。権威的で重い感じの神様の姿ではなく変化に富む人間の感情を代弁し、見る人に親しみと共感をもたらす存在としての表現を目指している。
また、〈ドッケビ〉とともに‘時間’と‘記憶’は現在の自分の概念と制作において、とても重要なテーマになっており、人間の物理的な生命より長く存在しているものについて興味を持つようになった。もう消えてしまった過去の人との物語や関係性をそのまま記憶している存在は、ある偉大な歴史書よりも自分に大きな感動とインスピレーションを与えてくれている。自分が興味を持っている物とは昔の宗教用品や芸術作品などの特殊な目的を持っていた物だけに拘らず、過去の人の痕跡が残っている日用品などその対象は幅が広い。
さらに人間の寿命を超えた永続的な時間の中での存在に関する自分の研究を進めていくうちに、2020年6月に韓国のソウルで開催された個展「華麗なる神のドッケビ:時間の痕跡から目覚める」では歴史のある韓国の古美術画廊「⾼麗房」が所蔵している先祖たちの魂を感じさせる古美術品を協賛してもらい、自分が制作した〈ドッケビ〉シリーズとコラボレーションして構成する機会を得ることができた。
展示で紹介された数百年前のバンダジ(韓国の伝統的な家具の一つで上部だけに扉のある箪笥)、米櫃、テーブルからは先代の生活や文化を共感できる古拙の美を、自分の〈ドッケビ〉シリーズでは無形の物語や精神的な感性を感じさせることを目指して展示構成に取り組んだ。
ソウルでの個展を通して今までのように断片的で物理的な制作方向から離れ、過去の痕跡を持つ古美術と昔の物語と意識をモチーフとし、現代に復活させた自分の〈ドッケビ〉シリーズのコラボレーションによって過去と現在を繋ぐ新たな表現の可能性を感じることができた。
※2021年秋 韓国および日本での個展に寄せての作家ステイトメントより)